安辧　　　［安挿して例の通り処理せよ］
○［考察］
①「由浙轉護來、節奉檄行、倶經轉飭福防廳、査例安辧詳報去後、茲據攝廳福州府徐元譯訊」
（「歴代寶案」三四二〇）
②「先奉憲行、司飭、挨該夷船護送到省、安挿館　驛、譯訊供情、照例辧理等因、茲據福州府攝　理福防同知事方禮泰詳報」（歴代寶案」三三六七）
③「奉憲飭、司、譯訊供情、安挿撫恤、茲行據攝理福防同知事福州府知府方禮泰譯訊」
（「歴代寶案」三三五九）
④「先奉憲臺批・檄行、司飭遵去後、茲據兼攝福防同知事福州府知府徐元逐一譯訊（「歴代寶案」三四四六）
⑤「琉球國難番伊波等二十四人船貨、被風漂浙、轉護來、節奉批・檄行、司倶經飭福防廳、査例安辧詳報去後、茲據攝署福州府知府王右弼譯訊」（「歴代寶案」三五五〇）
⑥「琉球國難番大城等三十一人船隻、遭風飄浙、護送到一案、行據福防同知會營査驗・・」
　　　　　（「歴代寶案」三五八七）
　右の事例はどれも琉球人が中国の福建以外の地に漂流したのをに護送して琉球館に安挿させるまでの手続きを記したものである。右の事例には省略があるが、これらの事例を総括するとその手続きは次のようになると考える。
一督撫が布政司に「該の夷船が護送されて福建に到るのをまって、琉球館に安挿して遭難した経緯を聞き例の通り福防廳に飭して処理せしめよ」との指示命令である「憲批」「憲飭」「批」を発する。
二福建等處承宣布政使司、右の督撫の指示命令を受けとる。
　　事例①⑤の場合は「檄行」の内容が省略され、事例②の場合は「憲行」の内容が記され、事例③④では、略記されている。⑥の場合は一、二の手続きを省略している。
三　福建等處承宣布政使司、督撫の指示命令を福防廰に轉飭する。
四　福防廳、福建等處承宣布政使司から「督撫」の指示を轉飭され、その指示通りに処理したことを詳文にまとめて福建等處承宣布政使司に提出する。
五　福建等處承宣布政使司、福防廳より四の詳文を受けとる。
　　「據福州府攝理福防同知事方禮泰詳報（事例②）」、「據兼攝福防同知事福州府知府徐元逐一譯訊（事例４）」でそれを表記している。
　　三、四、五の手続きの表記の仕方には、「倶經轉飭福防廳、査例、案辧詳報去後、茲據該攝廳福州府徐元譯訊（事例①、同型に事例④、⑤がある）」、「行據攝理福防同知事福州府知府方禮泰譯訊」（事例③、同型に事例⑥がある）」及び「事例②のように手続き三が省略さている場合」、の三つの句型がある。　さて、以上のことから、福建等處承宣布政使司は福防廳に「督撫」の指示を轉飭することが分った（事例①、②、④、⑤）。轉飭とは取り次いで飭する、すなわち命令することであるから、福建等處承宣布政使司が福防廳に申し送った（行・・・去後）の内容は、「督撫」の指示命令である「憲行」「憲飭」「憲臺批・檄行」「批」の内容と同様であると考えてよい。従って、福建等處承宣布政使司が福防廳に轉飭して「査例案辧（事例①⑤）」するように申付けたその内容は、「督撫」が福建等處承宣布政使司に指示命令した「安挿館驛譯訊供情、照例辧理（事例②）」を簡略したものであるとすることができる。
　このことから、「査例案辧」を「例を査べて安挿して例の通り処理せよ」との意味に解すことができると考える。