○[考察]
@具題:題本を以て上奏する。(「大漢和辭典」)
A具奏:奏本を以て上奏する。(「大漢和辭典」)
B具呈:申請する。出願する。(「大漢和辭典」)
C具報:報告書を呈する。又詳細に報告する。
     (「大漢和辭典」)
D具保状:保證状を認める。引き受け書を差し出 す。(「大漢和辭典」)
E具限状:期限定めの願書を提出する。限状は官 の判定を經て一定の期限を許可された 者に與へる証書。(「大漢和辭典」)
 以上の例は「大漢和辭典」に據るものであるが、@〜Eまでの「造語形式」とその字解には共通する所がある。すなわち、「具」の直下にある奏、題、呈、保状、限状、はいずれも「文書」の一種であり、「具」の字解をあらわす「上奏する」(@、A)、「出願する」(B)、「呈する」(C)、「差し出す」(D)、「提出する」(E)には、甲から乙への文書の移動、すなわち、DEのように甲から乙文書を「差し出す」「提出する」という行為をあらわす意義がいずれも含み持っていることである。
 従って、「具」の直下に、文書の一種を表わす語がある場合、「具」には「提出する」「差し出す」という意義があると考えられる。
 ところが、「中国語大辞典」の「具」の意義はは、右の「大漢和辭典」より導引した「提出する」「差し出す」という意義が、「作成する」「したためる」に解されているのである。
F具 :書く。文書を作成する。したためる。
[具札子](上奏文を作成する)
G具表:上奏文をしたためる。
[具表奏聞](上奏文をしたためて上奏す る)
H具禀:上司に報告する文書を作成する。
   [県里具禀申報撫台](県では報告書を作 成して巡撫に提出した)
I具呈:具申する。文書をしたためて申請する。
J具文:文字にする。文を書く。
K具結:○旧時官署に提出した責任を負ふことを 表示する文件。保証書。同意書。   ○(官署に保証書同意書を)を提出する。
[具結完案](事件の結末を報告する文 書を提出する)
[具結領回失物](一札入れて遺失物を 引き取る)
[各吏具結申報上司](役人たちは文書に して上司に申し立てました)
L具申: 具申する。審理した結果を公文にして上 司に報告する
 しかし、よく見ると、「中国語大辞典」の「具」にも「提出する」の義と「作成する」の義との両方の意味があることが知れる。すなわち、FからJの例における「したためる、作成する、書く」の意義と「大漢和辭典」より導引した「提出する」「差し出す」と同義のKの「提出する」との両義があるのである。
 ところで、Lをみると、「具」を「公文にして・・・報告する」に解している。このLが文書作成及び発送の手順からみて「具」の意を最適に字解したものであると考える。
 「公文にして」というのは「したためる、作成する」にあたり、「報告する」は「差し出す、提出する」にあたると考えられる。
 以上のことから、「具」には「(文書類を)作成して提出する」「(文書類を)したためて差し出す」という義があると考える。
 尚、「中日大辭典」によると、「具文:備文と同じ。文書を作成するの意で上行文に用いる。[理合具文呈請鑒核](理としては、まさに文書をもって呈してご審査を請うべきである。・・をお願いします)」とあって、「具文」と「備文」とが同義であることが知れる。よって、「備文」の「備」にも「(文書類を)作成して提出する」「(文書類)をしたためて差し出す」という意味があると考えられる。