轉詳
○[考察]
@轉 :轉送、轉行。歴史文書中、表示將不由本 機関直接辧理的外来文件轉送其他機関的 用語。此語表明文件轉遞的関係、如”據 該處住戸某某呈稱:・・呈請轉逹過廰”。 此語多和所轉送的機関簡稱連用、形成多 種用語。如”轉部”、意即將來文轉送到 中央某部。以此類推可以有”轉處”、” 轉府”、”轉廰”、”轉局”、”轉市”、 ”轉縣””轉署”等語。此語亦常和”到” ”下”、”過””前來”等語連用、如” 轉令下署”、”轉咨到署””轉函到署”” 轉呈前來”(「歴史文書用語辭典)
  [過:訪れる、たちよる、「新字源」]↓参る
[達:とどける「新字源」]
[轉解:トリツギヒキワタシ、「訓讀吏文」]
[下:投下也、オクリ、ワタス、「訓讀吏文」]↓到る
@轉:轉送、轉行。歴史文書中、本の機関が直接に辧理するに由らざる外来の文件を將って、其の他の機関に轉送するを表示する用語なり。此の語は文件をば轉遞する関係を表明するなり。”該處住
う い  こ
戸の某某の呈を據けたるが稱ふには、呈もて請ふ
とりつぎとど 参
らくは轉  逹け廰に過らさんことを”の如し。此の語は多く轉送する所の機関の簡稱と連用して多
とりつが
種の用語を形成す。”部に轉 れたし”の如し。

意は、即ち來文を将って轉送して中央の某部に到
これ もっ もっ
らしめることなり。此を以て類推するに、以て”
”轉處”、”轉府”、”轉廰”、”轉局”、”轉市”、”轉縣””轉署”等語あるべし。此の語も

亦た常に”到”、”下”、”過””前來”等語と
とりつが いた とりつが
連用す。”轉 れたる令、署に下る”、”轉  れ
とりつが
たる咨、署に到る””轉  れたる函、署に到る。”
とりつが まかりこ
”轉 れたる呈、前來したり”との如し。
A轉飭:飭、誥誡。歴史文書中、表示將上級機関 來文、代爲轉往所屬下級機関、并命令其 遵照辧理的用語。如”理合呈請鈞長鑒核、 轉飭某機関遵行”
A轉飭:飭は誥誡なり。歴史文書にて、上級機関よりの來文を將って、代わりて所屬の下級機関に
むねにしたが 処 理
轉往し、并びに命令して其をして遵照 ひて辧理

せしむるを爲すを表示するの用語なり。”理とし
閣  下
て合しく呈もて請ふらくは、鈞長にて鑒核せられ、
とりつ
轉 ひで某機関に飭して遵行せしめられたし”との如し。
B轉咨:咨、平級機関的來往文書、這里用作動詞、 即指用咨文形式將文書發往平級機関。歴史文 書中、表示將外機関來文、代爲轉送其他平級 機関的用語。即外機関來文、以咨文等形式轉 發平級機関。(「歴史文書用語辭典」)
こ れ な
B咨は平級機関の來往文書なり、這里は動詞と作して用ひれば、即ち咨文の形式を用ひて、文書を

將って平級機関に發往するを指すなり。歴史文書

中にて、外機関の來文を將って、代わりて其の他の平級機関に轉送を爲すを表示する用語なり。即ち、外機関の來文は咨文の形式を將って、平級機関に轉發するなり。
C轉送:取り次いで上奏する(「中日大辭典」)
 右の@からCの字解によって「轉詳」を考察する。
 Aの轉飭とは上級機関(甲)の発した飭を得た機関(乙)がその所屬である下級機関(丙)に対して飭そのものを送るのではなく、上級機関(甲)の意を受けて乙の機関は甲の命令を丙に傳えるとともに丙に遵行させる手続きを表現したした用語であると解せられる。すなわち、轉飭とは「飭を
とりつ  とりつ
轉 ひでおくる」に解するのではなく、「轉 ひで飭して遵行せしめる」と解したほうが妥当であると考える。
 又、「轉奏」というのは、Aの字解の方に近く「題奏文」を轉つぐのではなく轉ついひで「上奏」することである。
 しかし、「轉咨」は咨文を取り次いで送る、意味である。轉飭、轉奏、轉咨はともに轉の付きかたは同じであるが、用法には相違があるようである。すなわち、「轉」には「文書そのものを取り次いで送る」という用法と「・・・の意向をくんで轉つひで・・・して・・・させる」との用法があると解せられる。
○「轉詳」はその内のどの用法に該当するか、文書の授受関係に照らして考えたい。
○「歴代寶案」の例
「乞爲轉詳督撫兩院題明」(歴代寶案」一五四五)
 右の「歴代寶案」の例文は琉球國王が福建等處承宣布政使司に宛てた咨文中の文句である。琉球國中山王と福建等處承宣布政使司との公文書の授受は「咨文」の形式を用いてなされている。咨文は同級間でやりとりする公文書である。琉球國中山王と福建等處承宣布政使司とは同級関係と見做されていたことがわかる。
 ところで、「詳」は「詳は明清の地方衙門の下級が上級に向かひて呈報する一種の文書なり(歴史文書用語辭典」)」、「上級官庁へ報告の公文書(を出す)(「中日大辭典」)」とあるように、下級機関が上級機関へ提出する文書である。
 琉球國中山王と福建等處承宣布政使司とは同級であり、上下関係はないので琉球國中山王が福建等處承宣布政使司に対して「詳」を提出することはないと考える。また、管見するところ「歴代寶案」にはその例はないようである。
 琉球國中山王と総督・巡撫との関係は明白ではないが、総督・巡撫と、琉球國中山王と同級にある福建等處承宣布政使司との上下関係は、総督・巡撫の方が福建等處承宣布政使司より上級の機関であることからすると、総督・巡撫は琉球國中山王よりは上級に属すると考えられる。
 右の「歴代寶案」の例にある「轉詳」の「詳」は下級機関が上級機関に対して提出する文書であり、また、この「詳」が琉球國中山王が同級である福建等處承宣布政使司に対して宛てたものではないとすると、これは、琉球國中山王が、自身より上級機関に属する総督・巡撫へ宛てた文書であると考えられる。
 しかし、管見するところ、琉球國中山王と総督・巡撫との文書の直接的なやり取りはほとんど見当たらない。又、豊見山和行の「琉球における中国関係文書について」で一八四四年における「中国へ差し出すために作成された外交文書として、進貢表壱通、官生帰国御願之奏壱通、礼部江進貢咨壱通、礼部江官生帰国御願之奏写之咨壱通、布政司江進貢咨壱通、布政司江官生帰国御願之奏写之咨壱通、布政司江感謝咨壱通、符文壱通、執照弐通」の十一通の文書をあげているが、総督・巡撫へ宛てたものは一通もない。それから、琉球國中山王が総督・巡撫に「詳文」を提出したという紀録も見当たらない。このことから、先の「轉詳」の「詳」は琉球國中山王が総督・巡撫に宛てたものではないと考える。
 右の「歴代寶案」の例文は琉球國中山王が福建等處承宣布政使司に宛てた咨文中の文句であり、この例文で文書の收發に関係する機関には琉球國中山王、福建等處承宣布政使司、総督・巡撫の四機関があるのみであるから、「轉詳」の「詳」は琉球國中山王が福建等處承宣布政使司、総督・巡撫に宛てたものでないのだから、福建等處承宣布政使司が総督・巡撫に対して提出すべき「詳」である、と考えるのが妥当だろう。
 以上のことから、「轉詳」とは琉球國中山王が総督・巡撫に宛てた「詳」を福建等處承宣布政使司が取り次いで総督・巡撫に送る、との意味ではなく、「琉球國中山王の意向をくんで福建等處承宣布政使司が自ら「詳文」を作成して琉球國中山王の意向を汲み入れるように願うための文書」であると考える。
 右のことから「乞爲轉詳」は「乞ふらくは、[
とり 詳文を差し出
琉球國中山王の意向を]轉つひで詳 して、・・・をして・・・を爲さしめられんことを」と訓
ぜられると考える。
こ とり 詳文をさしだ
 「乞ふらくは[貴司は琉球國中山王の意向を]轉つひで詳 して督撫兩院をして題明するを爲さしめられんことを」
と。
とりつ 奏本を差しだして申し上げられ