批迴  [委員が京より回省するために必要な証拠の記載された書類]
○各省ヨリ戸部及工部ニ税銀サニ銅鉛竹木絹帛の類ヲ解送スルニ當リテハ督撫ハ其事由ヲ具シテ批文ナルモノヲ造リ該解官ニ附與シ解官京ニ到ルトキ之ヲ戸科若クハ工科ニ交シテ査驗ニ供シソノ銀物ヲ部ニ交納シタル後、部ハ實收及批迴を給シ解官ヲシテ齎ラシテ戸科若クハ工科ニ至リテ査覈を受ケシム批迴トハ解官ニ回省ヲ許スノ證左ヲ謂フ解官は戸科若クハ工科ニ於イテ批迴ヲ査覈スルヲ挨チテ始メテ京ヲ出ツルコトヲ得ルモノトス
     (「清國行政法」)
○「清國行政法」にいう戸部工部発給の批迴とは「解官ニ回省ヲ許スノ證左ヲ謂フ」とあるが、その批迴が効力を発効するのは解官が戸科あるいは工科にその批迴を持参し戸科もしくは工科の査覈(=察核=詳しく領査して決裁する)を受けて後である。従って戸部及工部発給の批迴には「回省を許す」効力はないのだから、戸部工部発給の批迴は、解官が京より回省を許される爲に必要な証拠の記載された未決済の書類であるとすることができる。
 ところで、「歴代寳案」に布政司発給の批迴がある。次のものである。
 「相應詳請憲臺賜給咨文發司、以便交付該巡檢 巖澄清領齎、本司ネ給批迴、付該員齎送憲咨併 伴送朝鮮飄風彜人壹拾貳名、女人陸口、共男婦 壹拾捌名口、沿途照看、解送禮部可也・・」
       (「歴代寳案」一五三七)
 「清國行政法」に記すところの批迴の発給者は戸部、工部で、その被給者は解官であり、その批迴の決裁者は戸部、工部を稽察する戸科、工科である。
 「歴代寳案」の例では批迴の発給は福建等處承宣布政使司であり、被給者は遭難朝鮮人を京に送り届ける委員たる巡檢巖澄清である。
 布政司発給の批迴の決裁者は誰であろうか。外国との交渉関係は禮部の主客清吏司が職掌している。遭難朝鮮人を禮部に届けるということであるから、禮部を稽察する禮科がその決裁者となるであろう。
 このように、「清國行政法」の例とは若干相違するが、その「批迴」の機能作用は「清國行政法」のそれと同様であると考える。
 以上のことによって、「歴代寳案」の布政司発給の「批迴」は「遭難朝鮮人を京へ送り届ける委員巖澄清等が京から回省を許されるために必要な証拠の記載された未決済の書類」もしくは、もう少し簡略して、「回省に必要な証拠書類」とすることができよう。
 遭難朝鮮人を送り届ける委員の巖澄清は、総督から咨文を、布政司から批迴を給されてから、福州を出発し、京に到着して禮部に朝鮮人を引き渡して後、此の書類を持参して禮科に赴き禮科の査覈を受けて回省を許可され回省することになる。
また い (注一)
○也、回批[迴批]と稱う。清代の一種の回執の名稱
おくりわた
なり。各省が内務府及び各衙門に解支 す飯食雑項
お すべ
銀兩をば驗収したる後、三日の内に在いて必ず須からく該の解銀委員に発給するに批回[批迴]を以ってし即ちに回執すべし。如し遅xあらば、例

とお 処 罰
の照りに参処するなり。又た、軍機処には回批簿
おくりわた
ありて、各省が軍機処に解交 して津貼する時、回執を給付する低簿と為す。
(「中国歴史大辭典・清史(上)二一八頁、原中文)
 注一 回執:(使いのものにわたす)手紙とか物品の受けとりがき。(「中日大辭典」)